アルピーヌ パッション 完全アルピーヌ・ガイド
A110 Impression

 雑誌等で語りつくされたA110の試乗記。
しかしラリーで活躍した車、ミューの低い路面では?
と考えるのは自然だろう。

A110はトラクションが良い、コンパクトで軽量なボディと
そのトラクションの良さが、ラリーでの活躍の秘訣だと
レポートを見ることがある。
軽量、コンパクトは間違いないとして、トラクションには疑問がある。
トラクションには2種類あり、シャシーのトラクション、
それにエンジンのトラクションである。
A110はリアエンジンのため重量の7割近くがリアに掛かり、
シャシーの持つトラクションは、間違いなく良い。
しかし、エンジンのトラクションが良いとは言えないだろう。
元々乗用車のエンジンを競技用にしたA110、特に1300Sは
高回転型でフライホイールも軽いので、当時のタイヤを考えると
決してトラクションの良いエンジンとは言えない。
それでも、その軽量ボディと駆動輪に大きな加重が掛かるおかげで
登りのスタート時でもかなりの加速が可能なのだ。

 実際の走りはというと、基本的にはオーバーステア、
ストレート、コーナーを問わず駆動輪は空転をし続ける。
こんな事を書くと、いかにも難しそうだが、
フロントがしっかりとグリップしてくれるので、
ハンドルで姿勢の修正、あとはアクセルワークに専念できるので
ラリーカーとしてはとても扱いやすく楽しい車である。
押し出されて曲がらなかったりといった、
最近の車のような難しさはないが、
空転の具合で向きを変えるようなアクセルワークは、
姿勢を間違えるとタイムには繋がらないし、
高速コーナーは思った以上の緊張感がある。
曲がりくねったモンテカルロのSSでは、戦闘力があっただろうが、
雪上で高速なスエディッシュでのドライバーの緊張感は想像にかたくない。

 また、問題は、リアのスイングアクスルにもある。
除雪したばかりのフラットな路面では問題ないのだが、
荒れた路面になると、伸びきったタイヤがメガテイブになるし、
トゥーも大きく変化してしまい、思った以上に姿勢が乱れてしまう。
そんなスイングアクスルのA110だが、
その欠点をカバーするようなドライビング、
ようはサスが伸びきらないようにすれば、
想像以上の戦闘力を見せてくれるのだ。

 タイムを出すには、路面を良く見て、
今の姿勢にあったライン取りが必要不可欠なのだ。
そのため、A110が得意としたのが、
路面の良いヨーロッパラウンドというのは、
地元としての地の利だけでなく、車の特性もあったのだと
雪道を走って、初めて実感できたのである。


 今では、ほぼ禁止になってしまった、スパイクタイヤだが、
その当時、アルピーヌにブリジストン39Rのフルスパイク
(ワインカップ)を履かせて走ることが出来たのは、
今考えるとラッキーだった。
それも、土地柄、M社係のラリーストが多く、
彼らと一緒に毎晩のように走りに行けたのは
いまでも私の財産となっている。
当時でもラリースパイクは禁止で、山の上までは
当時販売の始まったばかりのスタッドレス。
A110に4本のスパイクを積んで遊びに行ったものだ。
最近の4WDラリーカーはスタッドレスでも、
当時の車のフルスパイク仕様よりもはるかに速く走れる。
そんな速い車と比べれば、A110は遅く穏やかな車に感じる。
しかし、その楽しさは、今の車にはないもの。
それに、A110は、70年代初頭、最速の車
今でも当時のラリーストの話を聞くと、
A110は憧れの車だったそうだ。

 それは今でも同じ、
出来ることならもう一度
雪の上で、それも日本で最も細かった155−13でなく
145、もしくはA110の重量を考えると、
135−13くらいの細いラリースパイクで
本気で走らせたいものだ。

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