アルピーヌ パッション 完全アルピーヌ・ガイド
アルピーヌA110 サスペンション&シャーシ

 サスペンションはブレーキと同じく、R8の流用である。前足回りはR8のサブフレームとアーム類、ラック&ピニオンが利用されている。A110がR8と違うのは短くされたバネとショックくらいである。

 さて、その前足回りはダブルウィシュボーンと、まるでスポーツカーにために作られたような構造である。元々がR8の重さの耐えられるものだから、ストロークも剛性も十分である。それを車体に合わせてバネとダンパーを短いものにしているのだからA110には最高のものになったのであろう。※注1

 後ろの足回りもミッションを吊っているサブフレームから足の先まで利用している。そのためミッションに付けられたスイングアクスルという、一世代前の古い構造といえる。その位置の固定のためミッション前方から延びるリンケージもR8と同じ構造である。縦置きのミッションからはえるスイングアクスルはストロークは稼げるが、スタビリティーに関してはお世辞にも良いとはいえない。もちろん前と同じようにバネとダンパーは専用のものが使われている。

 R8にゴルディーニが加わってからは、そのリヤと同じ4本ダンパー(片側2本)が使われてた。また、A110だけはミッションの取り付け位置を少しだけ下げられ、あの独特なキャンバーとなっている。これにより、スタビリティはかなり改善されている。



 この前後足回りをつなぐのは直径十数cmもある太く丸い鉄パイプである。前のサブフレームは溶接で、後ろは細いフレームにR8のクロスメンバーがボルト止めされている。ボディはこの丸パイプから延びているパイプに接着されているので、歪んでも最低限の音ですむ。またこの丸パイプがしなることでも、多少サスペンションを補っている。

 スタビリティーの高い前と弱い後ろ、適度にしなるシャシー構造が善しも悪しきもA110の性格を決定しているといえる。

 また、この単純な前後のサスペンション構造は、整備性が良いため、ラリーにおいては、そのサービス面で強力な武器になっていたのである。



 73年にA310が発売され、そのリアサスペンションを移植した1600SCが発売され1600SXに受け継がれる。フロントはその大半を今までのA110、つまりR8の部品が使われているが、リアはそのフレームにも大きな変更がなされ、ダブルウイッシュボーンが与えられる。GTカーとして開発されたA310の足回りのせいか、整備性がよいとは言えなかった。そのためか、ラリー等で活躍することも多くなかった車である。


※注1)バネもダンパーもR8Gと同じだが、R8Gが生産される前の初期のA110にその足回りが使われているのは不思議である。