アルピーヌ パッション 完全アルピーヌ・ガイド
大友 幸夫

どこまでも、これで走ってみたい気がした

 最初の出会いは、18歳くらいの頃、
アルピーヌのオーナーだった知人に乗せてもらったときでした。
それまで写真でしか見たことはなかったA110の印象は
思っていたよりもずっとコンパクトで
素直な車だなあというものでした。
そして、これで雪の中を走ったら面白そうだなと。
僕たちには、それが一番の楽しみだったからです。


 高嶺の花の車でした。
一生懸命お金をためて、
手にいれるまでに10年くらいかかりました。
最初のドライビングで素直に感じたのは、
期待を裏切らない、明るい中にも冷静さが残るような、
紗のかかった暗さのある、フランス車だなあ、ということでした。
でも、それ以上に強く感じたのは
なんとなく、途方もない遠くに行けそうだということです。

そしてどこまでもどこまでも、

このA110で走ってみたいなあと……。


 あの頃は本当に情報がありませんでした。
いから考えてみれば、情けない話しか入っていなかったから
車の実物、それから1〜2冊の洋書やパーツリストだけを頼りにして
みんなアルピーヌを語っていました。それはそれで楽しかったけど。


 雪の中を走るのは、本当に面白かったな。
1300としてはこの程度かなというレベルの速さだけど、
コントロールのしやすさは群を抜いてました。
ハンドルではなく、アクセルで向きを変えるというのが
体現できたような。
ホイールスピンのコントロールのみが、
車のコントロールといってもいい。

 この時代にWRCを戦っていた人に
乗ってもらったことがあったけど、
当時の国産車でアルピーヌに勝つのはまず無理なほど、
いい車だといっていました。 
これとやるんじゃ絶対に勝てない、と。

 エンジン1つとっても、何馬力という数値的なものではなく、
速く走るためにはどうしたらいいかというエンジニアのセンスが生きています。
現代の考え方からすればすでに古いタイプのエンジンだけど、
車体全部を総合してみればクラシックカー然としたところがなくて、
今の若い人が乗ってもいい車と思えるように、仕上がっています。


 思うに、この車体とエンジンのバランスがここまでよくなったのは、
奇跡的な偶然が手助けをしたんじゃないかという気がしています。
このような古い機構を使ったシャーシやエンジンで、
これほど絶妙なバランスに仕上げるというのは、
狙ったり努力したりしてできるようなものではないのじゃないかなあと。
ベルリネッタが今も憧れの車でい続けるのも
スタイルと、乗ったときのイメージが 
ピッタリマッチしているからなのかもしれません。

profile: アルピーヌ部品専門店「GBS」の二代目店主。愛犬:クロ。